ブログ 不安なときの対処方法 心のしくみを理解し安心をとりもどす

心身の健やかさをもたらす3つの自律神経と安心安全の感覚(後編)

2022年8月19日

前回は、自律神経についての新しい発見について理解するとともに、心身の健康にとって、腹側迷走神経がきちんと機能していること、その鍵は安全と思える状況や環境が必要であることを解説してきました。

 

今回は、腹側迷走神経を機能させたり、整えていくことと、「安全な環境」とはどういうことなのかを、心との関係から見ていきたいと思います。

 

セルフイメージがネガティブだと安心安全な環境ととらえにくい

 

私たちには、潜在意識にあるビリーフやセルフイメージを通して、世界を見る(投影する)というしくみがあります。

一方、自律神経システムは、いつもここが安全なのか、危険なのかというのを検出して、どの神経系を優位に働かせるかを無意識下で、自動的に調整し、働くのでした。

 

つまり、ビリーフがネガティブであれば、世界は怖いと感じたり、人は優しくないという世界観になってしまいます。そして、この世界観は自律神経にも影響を与えます。それは、腹側迷走神経系が機能してのつながりや関わりの方に、というよりは、交感神経優位の緊張状態や、背側迷走神経がより優位に働いて消極的な状態(避けたり、億劫に感じたり、閉じこもったり)の方になるといったふうに、です。

これはつまり、どんなに物理的に安全な状況、環境を用意されたとしても、内側の状態が変わらない限り、危険や脅威だという世界観の中にいることになり、腹側迷走神経がうまく機能できず、交感神経や背側迷走神経が日常的に用いられてしまうことが起きるということです。

 

それでは、内側の状態を変えて、安心安全の感覚を回復していくためにはどうしたらよいのでしょうか?

 

安心安全の感覚の回復のために必要なこと

過去の物語、過去の自分との同化から抜けて、今ここに戻る

私たちが苦しんでいる時というのは、ビリーフやセルフイメージをすっかり信じ、同化している時です。ビリーフやセルフイメージを信じている時というのは、ある意味、そのビリーフを持つに至った過去の体験(物語)を生きていて、「今ここにいない状態」という言い方をしてもよいかと思います。それは例えば、いじめにあった経験から「私は迷惑な存在だ」というビリーフを持つに至った人がいた場合、今冷房のきいた快適な安全な空間にいるにもかかわらず、いじめられた体験(物語)の中の自分になっていて、周りは私を受け入れてくれているのか?と不安を感じ、自律神経も巻き込んで緊張をしているようなものです。

 

このような状態は、今、実際に起きていることを完全に見過ごしている状態とも言えるでしょう。ですから、過去の体験(物語)から出るためには、「今」に戻る必要があるということです。

そのためには、今実際に体験していることに目を向けることです。

例えば、

・ソファに座っている時の背中が背もたれにあたっている感覚とか、
 
・コーヒーの匂いが鼻腔一杯に広がっている感じとか、
 
・呼吸のリズム
 
に注目をしてみるのです。

 

身体の中にあるエネルギーを解放する

また、私たちが、過去の体験(物語)を信じてしまうのは、その時に感じていた感情―感覚―思いを身体に保持しているからでした。

 

ちなみに、野生の動物たちは脅威に遭遇し、闘うことも逃げることもできないとなった場合、背側迷走神経系の凍りつきモードを作動させて、「仮死状態・死んだふり」をして生命を維持します。そして、脅威が去ると、身体を震わせて、凍りつきのときに身体にためこんだエネルギーを放出して、背側迷走神経系からニュートラルな状態に戻すのです。

しかしながら、私たち人間の場合は、文化的背景などから、震えはよくないものとみなし、脅威を感じた際に閉じ込めた感情―感覚―思いを解放せずに、とどまらせてしまうのです。よく、フラッシュバックで、当時をありありと思い出したりするのは、身体に解放されていない感情ー感覚ー思いがあるためです。

 

このような心のしくみの観点からも、神経系システムの観点からも、心も身体も「脅威は終わった」と感じるためには、身体に働きかけて、身体にたまったエネルギー(感情―感覚―思い)を解放することが必要であることが理解できるかと思います。

 

ちなみに私は、身体にある経絡を刺激しながら、抑圧された感情―感覚―思いを解放していけるEFTやマトリックスリインプリンティングといったセラピーをセッションで使いますが、上記のしくみからも理にかなっているなと思います。

 

腹側迷走神経系が未発達だと、安心安全の感覚があまりよくわからない

前回の記事にも書きましたが、腹側迷走神経は、生れながらに持っているものではなく、生育の過程で発達していくもので、養育者から十分なケアを受けられたという感覚があったかどうかがこの発達に関連があるのでした。

また、私たちは生まれてから6、7歳までの間に、家庭内の雰囲気、エネルギーをスポンジのように吸い込んで育つとも言われます。ですので、何かはっきりとわかる形でのニグレクトや虐待などがなくても、腹側迷走神経の発達が阻まれた場合、自分自身の中に安心安全な感覚が持ちにくいままとなり(そもそもわからない、ということもあるでしょう)、それが生きづらさにつながってしまいます。安心安全な感覚がよくわからない中で、それでもなんとか自分一人で生き残れるようにと、背側迷走神経による防衛反応を優先的に作動させるので(こうした中で、なんらかのビリーフやセルフイメージも持つことにもなるでしょう)、「生命の維持」は確保はできますが、社会的交流のモードなどからは遠ざかってしまいますから、人との関わりが難しくなったり、孤立感が高まったりと「いつもなんだか生きづらい」ということになってしまうのですね。

 

また、このような安心安全な感覚が脆弱だと、「危険なことに遭遇したとしても、いつかは安心を感じられるところに自分は戻ることができる、いつかはこの不安感は終わる」という確信や信頼を持ちにくくなるとも言われています。自分自身の中での「自分は大丈夫だ」という感覚がうすいと、安心を与えてくれるものを外に求めることをし続けないといけなくなります。そしてそれをしている限り、自分自身の中に安心安全な感覚を得ることはできないのです。このことからも、生きづらさや苦しみから解放されるために、自分の中での安心安全な感覚がわかっているかどうかが鍵になることも理解できるかと思います。

 

では、このような腹側迷走神経系が十分に発達しなかった場合、どのようにしたらよいのでしょう?

 

安心安全の感覚を育てなおすために必要なこと

それには、腹側迷走神経複合体」に注目してみるのです。

腹側迷走神経複合体は、腹側迷走神経だけでなく、顔や、喉、耳、頭に分布される神経類と形成されているのでした。

つまり、横隔膜から上の部分にある部位を活性化していくのです。

 

例えば、

・顔のマッサージ
 
・バーボーブーと口、表情を動かしながら声を出す
 
・ハミングする
 
・深い呼吸を意識する(特に吐くのを長くする)
 
・自分にとって快適と思える音楽や音に触れる
 
・安心感や安全だなという感覚を与えてくれるものと接する(自然に触れることかもしれませんし、安心できる人やペットとの交流などかもしれません。)

 

いくつかご紹介をしましたが、浅井咲子さん著「不安・イライラがスッと消え去る『安心のタネ』の育て方」にたくさんのエクササイズが紹介されています。参考にされてみるとよいかと思います。

 

まとめ

2回にわたって、自律神経のしくみと心がもつしくみとの関係から「安全な環境」とは何なのかを理解するとともに、安心安全の感覚をどう回復したり、育てなおしていくのかについて見てきました。

 

私たちの中に、安心安全の感覚を持てていると(持てるようになると)、(これまで)防衛(闘うか逃げるかの防衛や、凍りついての防衛)のために奪われていたエネルギーを、本来使うべきところに充てることができます。

それは、苦手な状況や嫌いな人が減って、臆せず人との関わりがもてるようになったり、
リスクを恐れずにチャレンジしてみようというやる気がわいてきたり、
安心して一人寛ぐことができる(凍りつきの休息とは違う休息のしかたで休める)
といったように、です。

 

このように、心も身体も「安心」を感じられるところから立ち現れてくる自分らしさから、他者と関わったり、物事にあたったりしていきたいですね。

 

参考文献:
「『ポリヴェーガル理論』を読む からだ・こころ・社会」津田真人著(星和書店)

ポリヴェーガル理論入門」ステファン・W・ポージェス著(春秋社)

「不安・イライラがスッと消え去る『安心のタネ』の育て方」浅井咲子著(大和出版)

 

 


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