前回の記事では、自分の中に自己否定があると苦しむメカニズムについて見てきました。今回は、さらに一歩進めて、そのメカニズムで大きな役割を果たす「思い込み」や「ビリーフ」について、見ていきます。
自己否定で苦しむメカニズム
前回の記事では、自己否定は、自分がよしとしない思いや感情を自分が持っていること自体を受け止めたくないために起きるということをお話ししました。
自分にとって持っていたいか、いたくないか(否定するかしないか)は、これも、以前の記事で書きましたが、私たちの中に根源的に死への怖れがあるため、どれぐらい死への怖れが刺激されるか、によって決まるのでした。例えば、「私は能力がない」、「私は醜い」、「私は嫌われ者」、「私は繊細」などという思い込みやビリーフがあったとして、これらが生き残りの可能性を低めると解釈されると、持っていたくないものになる、否定したいものになる、というわけです。
ある人は、「私は繊細だ」という思いがあっても、あまりネガティブにとらえていないのに、ある人にとっては、とても否定的に響いてしまう、という違いがあるのは上記の怖れが刺激される度合いの違いなのです。
「私は〇〇だ」という思いが人によってとらえ方、響き方が違うということは、これは、絶対的なものではなく、「能力がない」「繊細だ」といっても何をもって「能力がない」「繊細」というのかも人によって違うでしょうから、私たちは、それぐらい、相対的で、非常にあやふやなものを信じていると言ってもよいかと思います。
ですから、苦しみから解放されるには、「能力がある自分になる」「繊細でない私になる」という方向ではなく、こんなに相対的であやふやな思い込みであるにもかかわらず、どうして私はそれを信じているのか? どんな経緯、理由があったのか? を自身が理解していくことがカギとなります。
そこで、今回は、まずは、私たちの中になぜこのような思い込みやビリーフが生まれるのか、その仕組みを見ていきたいと思います。
そして、その仕組みがわかれば、どのように思い込みやビリーフを解放していけばよいのかについても理解ができます。一緒に見ていきましょう。
体験を通して作られる思い込み、ビリーフ
私たちは、自身が経験したこと、見たこと、聞いたことなどを通して、思い込みやビリーフを形成していきます。
子供から、大人へと成長していく過程の中で、私たちを取り巻く家庭や学校の環境での体験、友人・交友関係での経験、社会にある常識や価値観などが、私たちの思い込みやビリーフの形成に影響を及ぼします。
子供時代というのは、家庭や幼稚園、保育所、学校での生活というのが、子供の世界の大半を占めている時期であり、様々な情報や価値観、世界観に触れられる機会が少ない時期です。そのために、起きた事柄への判断が客観的にできにくく、誤った解釈、認識などもストレートに信じこんでしまう時期とも言えます。
例えば、両親の間でのケンカが絶えないなど、家庭の雰囲気がピリピリした中で育った場合、安心安全の感覚が養われないままとなり、「社会は安全ではない」といった思い込みや、親が不仲なのは自分のせいだと思いこみ、その結果、「私は愛されない存在、いらない子」といったビリーフ(セルフイメージ)を持ちやすいことになる、ということです。もし、虐待やニグレクトがあった場合など、ビリーフ形成にどれだけの影響があるかは想像に難くないでしょう。
それに加えて、特に発達の段階では脳波も大きく関与していると言われています。
私たちの脳波ですが、4つの状態に分けられ、通常の状態は、ベータ波。リラックスしている時は、アルファ波が出ています。瞑想状態や浅い眠りの時はシータ波で、深い眠りの時の脳波はデルタ波です。
私たちが生まれてから6,7歳までの脳波は、
生まれてから2歳までは、主にデルタ波と言われ、2歳から6,7歳にかけてはシータ波が増えてくる時期と言われています。
つまり、6,7歳までの期間、デルタ波とシータ波が占める子供の脳は、催眠状態のようにあらゆる情報を吸収し、刷り込みや主観的にとらえた信念や考えを潜在意識にダイレクトに蓄積していくのです。
このように、6,7歳までの時期と思い込みやビリーフ形成には、深い関係があることが理解できるかと思います。
思い込みやビリーフを形成する体験の中にあるもの
思い込みやビリーフは各自の体験をもとに形成されるということを考えると、「私は愛されない存在だ」という一見同じビリーフを持っている2人の人がいたとしても、そのビリーフとともにある思いや感情や感覚、ストーリー、イメージなどはそれぞれ違うものである、と言えるでしょう。
前述の「私は繊細」というビリーフのとらえ方が、ある人はあまりネガティブにとらえていないのに、ある人には否定的に響いてしまうと書きましたが、それは、このように、このビリーフを形成した体験の中にあるものが違うためなのです。そして、体験の中の思いや感情、感覚、ストーリー、イメージが、死への可能性に近ければ近いと解釈されるほど、思い込みやビリーフは、苦しいもの、否定したくなるもの、持っていたくないものになってしまう、ということです。
このような仕組みがあることを踏まえると、私たちに苦しみをもたらすと思える思い込みやビリーフから自由になるカギは、思い込みやビリーフを形成した体験の中にある思いや感情、感覚、ストーリー、イメージを解体していくことなんだな、ということも理解できるのではないかと思います。
これらの思い込みやビリーフを見つけるために、心の階層を下りていきながら、これらを探ることができる問いかけ(「気づきの問いかけ」と言います)を使用しています。
次の記事では、どのように体験の中にある思いや感情、感覚、ストーリー、イメージを解体していくのかについて、思いー感情―感覚の関係を紐解きながら解説していきたいと思います!