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複雑性トラウマ

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トラウマについて~生きづらさから解放されて自分を愛する力を取り戻すために~(後編)

2022年12月29日

前回は、トラウマがどのようにできるのか、そしてそのトラウマがどうして残り続けるのかについてそのメカニズムを見てきました。

今回は、「トラウマ記憶」としてとどまることでどのような影響があるのかについて理解するとともに、前回のメカニズムを踏まえて、どのようにトラウマから回復をしていけばよいのかについてみていきましょう。

 

トラウマ記憶が留まることの影響

トラウマは、自分自身のとらえ方や世界の見え方に影響を与えます。前回みてきたような様々な要素や因子によって、私たちは強い恐怖感、どうにもならないことによる無力感や孤立感、分離感を感じると、それらから自分を守るために3つのFのFreeze 反応を起こし、それらを体の中に留めます。

 

私たちは、元々、感情―感覚―思いを通して、自分や世界をとらえるというしくみを持っているので、留めてしまった感情―感覚―思いが解放されない限り、私たちは自分のことを無力な小さな存在と感じたり、誰からも助けてもらえない存在だと思ったり、世界や社会は怖いところだと感じたりという風に、自分自身や世界へのとらえ方を変えてゆがめてしまうのです。→過去記事リンク

 

では、自分や世界をゆがめてとらえることで起きることとは、どのようなことでしょうか?

 

元々の私たちの自然な状態から遠ざかる(PTSDの症状)

体験がトラウマとなると、自分は小さな存在、犠牲者であると自分のことをとらえることで、下記のような反応のしかたを起こします。これらをPTSDの症状と言います。

 

・脅威感から抜け出せない:心も身体も警戒を解けないので、常に不安で、緊張している状態になる。そのことによって不眠、イライラするなど感情の調整がしにくくなる、身体への影響(例えば疲れがとれない、頭痛、過敏性大腸炎など)としても現れます。

 

・体験が過去のこととして整理されずに再体験症状として現れる:体験した当時と似たような状況に遭遇したり、ふとした何らかのトリガーによって、体験時にうけた感覚がそのままよみがえって、体験を再体験(フラッシュバック)する状態になる。

 

・トラウマを思い出したり、考えたりしたくないために回避行動をする:トラウマの記憶と関連するものを考えないようにしたり、思い出すきっかけとなるものを回避しつづける状態になる。時には、再び傷つかないように、心を麻痺させる方法として、アルコールや薬物などに依存をしていくこともあります。いずれも回避行動を取ることで、自分の普段の行動は制限され、生活の質が落ちていくことにもつながっていきます。

 

このように、自分や世界をネガティブにとらえてしまうと、私たちが本来もつ活力や元来の自然な状態から遠ざかる方向へと向かうので、生きづらさへとつながってしまいます。

 

安定した人間関係を築くのが難しくなる

トラウマ体験によって自分は守られない、世界は安全ではないといった、自分や世界への信頼が損なわれた状態になると、人間関係を築いていくことは当然難しくなってしまいます。

 

トラウマ体験によって自分や世界についての認知がゆがめられると、自分はいつも小さく無力な存在として存在することになり、その反対に人々や世界は信頼できない、やさしくない大きな存在として存在することになるでしょう。

そうなると、相手のことを怖いと思って避けたくなったり、逆に、本当は危険な相手かもしれないのに「こんな自分でも受け入れてくれる人なのではないか」と思って、過剰に相手に期待や好意を抱いてしまい、それが与えられない場合そのことで傷ついてしまったり、ということが起きます。

 

また、簡単に「支配―被支配」の構図に取り込まれてもしまいます。自分は無力だと思っているので、力の欠乏感を埋めるために、自分よりも力を持っている何か(人やモノ)を必要としてしまい、その相手の言いなりになったり、逆に虚勢を張ってあたかも自分に力があると感じたいために「誰か(何か)を支配する」ことに固執するといったことが起きます。境界線の記事でも書きましたが、共依存がトラウマと関連があるのは、トラウマによるゆがんだ自分や世界への見え方が、自分と相手との間のパワーバランスを見誤らせてしまうからなのです。

 

 

このように自分や世界への信頼や信用が欠落した状態は、自分と相手との適切な距離感をわからなくさせ、安定的な人間関係を築くことの障害となってしまうことにつながります。

 

抑圧することにエネルギーを使ってしまう

トラウマによって、凍らせた感情―感覚―思いは、解消されない限り、過剰な神経の高ぶりをもたらしたり、ふとしたはずみに再体験の症状がでたり、心にも身体にも影響を及ぼし続けます。このような状態が続くと、私たちは、野生動物のように解放するという方向ではなく、それがあまりにつらいので、さらに抑圧をしつづける、ということをします。

この、何かを思い出さないようにしよう、抑えようとする動きには、相応のエネルギーが必要です。ここにエネルギーが費やされると、抑うつ状態になったり、自分が何を感じているのか、何を思っているのかがわからなくなくなってしまう「感情的なマヒ状態」に陥ります。感情的なマヒ状態になると、自分の感情の扱い方、向き合い方がわからなくなってしまいます。トラウマの解消のためには、凍らせた感情―感覚―思いにアプローチして解消をしていく必要がありますが、この感情的なマヒ状態があると、感じたり、向き合ったりすることが難しくなり、それがトラウマからの回復を阻み、トラウマに苦しみ続けてしまうことにもつながってしまうのです。

 

ここまで、凍らせた感情―感覚―思いによって変えられたネガティブな自分や世界への認知がどのような形で影響がでるのかについて見てきました。

前回の記事で書いたように、野生動物は、トラウマを残しません。それは、捕獲者によって脅かされた生命の危機が去ると、自ら凍らせた状態(仮死状態)からゆっくり起き上がり(醒めて)、深呼吸し(腹側迷走神経系を刺激している)、体をぶるぶるふるわせて、留めていたエネルギーをリリースするからでした。

 

私たちがトラウマから回復していくには、上記の野生動物のように、フリーズさせて留めてしまったエネルギー(感情―感覚―思いの集積委)を解放することが大切です。

 

それでは、この凍らせた感情―感覚―思いをどのように解放し、トラウマから回復していけばよいのかを見ていきたいと思います。

 

トラウマからの回復のプロセス

凍らせた感情―感覚―思いを解放するには、まず、安心安全を感じられる状態になることが重要です。なぜなら、それが感じられないと、すでに書いたようにそもそも感情にアクセスすることができないからです。感情にアクセスできなければ、負の感情や感覚を解放することもできません。

 

感情にアクセスするためには、体験をトラウマにしてしまう4つの要素(UDIN)のうちの、I(一人で対処するしかなかった:Isolated)の部分にアプローチします。トラウマから回復するには、体験をトラウマにしてしまう4つの要素を取り除けばいいわけですが、特にトラウマは「誰も助けてくれない」という無力感と孤立感が支配する究極の状態なので、この状態と最も関係があるIからアプローチしていくことが効果的です。

そうすることで、これまで感じられなくなってしまっていた「安心安全」の感覚を取り戻すことをできるようにするのです。そこから入ることで、4つの要素の他の要素にアプローチしやすくなります。

 

I の要素にアプローチする方法は、「自分はひとりぼっちじゃない」というポジティブな感覚を感じてもらうことです。具体的には、トラウマの解放ワークに入る前に、サポーターになってほしい人や存在をイメージする、というワークを行います。

 

また、いきなり一番ショックが大きい場面や記憶の感情は扱わず、まずは全般的な負の感情を解放することも行います。具体的には、「もし思い出すとしたなら」という風に尋ねて、向き合うことへの怖さや不安感などを軽くするのです。(この際に、次に述べる感情解放のテクニック(EFT)などの心理療法を用います)これによって、トラウマの記憶に向き合うことへの抵抗も緩まり、感情や感覚へアクセスすることもしやすくなります。

 

私が採用している心理療法としては、「感情解放のテクニックEFT(Emotional Freedom Technique)」や「マトリックス・リインプリンティング」があります。これらは、エネルギーポイントである体のつぼ(経絡)を刺激していくのですが、つぼの刺激によって気が整うとともに、トラウマ体験によって留めてしまった感情や感覚、思いにアクセスがしやすく、アクセスができればできるほど抑圧していた(凍りつかせていた)感情や感覚、思いを解いていくことができるので、結果として歪んで解釈してしまった自分や世界へのとらえ方も変わることとなり、本来の自分、自分らしい自分へと回帰していくことができるのです。

 

また、トラウマケアの方法として「トラウマ解放エクササイズ(TRE)」という療法があります。これは、動物のように身体を震わせる運動をして、身体の中に残っている緊張感、エネルギーを解放することができるものです。ストレスの軽減から、紛争や自然災害などによる重度のトラウマケアにも使われています。

 

トラウマからの回復に大切なこと

再体験しないように注意する

トラウマの解放の治療を受ける、セッションなどの施術を受けるなど、トラウマに向き合うためには、前提として、「再体験」をしないように留意することが大切です。

 

なぜなら、凍らせたものが一気に急激に噴出してしまうと、処理したり整理したりする許容範囲を超えてしまい、それが新たなトラウマになってしまうことがあるからです。

 

炭酸水のボトルを急激に開けると、中の炭酸水が急激にあふれ出たという経験があるかと思いますが、トラウマも同じです。トラウマと向き合うためには、凍らせたものが一気に溶け出してこないように、ボトルのふたを緩やかに開ける際のあの手のひらや指の力を「うまく調整する」必要があるのです。

 

トラウマについての十分な知識、経験がある治療家、施術者を選ぶ

前述のような理由からも、トラウマからの回復のために治療や施術を利用する際には、トラウマやトラウマによってどのような症状や状態が引き起こされるのかについて十分な知識やトラウマ解放についての経験がある治療家、施術者を選ぶことも大切でしょう。

 

自分自身でも安心安全の感覚を育てる

前述の「うまく調整する」力を適切に働かせることに関係があるのが自律神経です。特に自律神経の回路の一つである腹側迷走神経がきちんと機能しているかがその調整力の鍵を握っています。

腹側迷走神経は、「ここは安全である」と判断されていればいるほど、交感神経と、安心して休息できることと関係のある背側迷走神経とを、バランスよく行き来することを可能にさせてくれる働きを持っているからです。

 

トラウマ体験というのは、自分の中から安全な感覚や安心感をそがれる経験なわけですから、トラウマワークをする際に、「安心、安全の感覚」を持ちながら向き合うためにも、また再体験をしないためにも、腹側迷走神経の機能を回復していく、より活性化できるようにしていくということが必要になってきます。また特に、腹側迷走神経系が十分に発達していない幼い頃に、長期間にわたり、繰り返し心の傷を負う体験をしてきた場合は、このステップがなおさら大切です。

 

腹側迷走神経を刺激する方法として、横隔膜から上の部分にある部位を活性化していくとよいです。以下は過去の記事にも記載しましたが、再掲しますね。

 

・顔のマッサージ・バーボーブーと口、表情を動かしながら声を出す・ハミングする

・深い呼吸を意識する(特に吐くのを長くする)

・自分にとって快適と思える音楽や音に触れる

・自分にとって、安心感や力をもたらしてくれるものをイメージして、イメージすることで得られる感覚をよく感じたり、自分の土台づくりのための資源(リソース)として活用する

・安心感や安全だなという感覚を与えてくれるものと接する(自然に触れることかもしれませんし、安心できる人やペットとの交流などかもしれません。)

 

ここで、このエクササイズを使われたAさんのケースをご紹介します。

Aさんは海外に住んでいらっしゃるのですが、一時帰国する日の前日にパニック発作に見舞われました(これが人生で初めての発作だったので、まさに4つの要素のUDINが揃った体験だったと言えます。)。それからというもの、神経が異常に高ぶり、何をするにも不安で、周りの音や気配など全てに過敏になるなどPTSDの症状に苦しんでいらっしゃいました。この時にご連絡をいただいたのですが、この時感情にアクセスすることが難しい状態でしたので、まずは、上記のエクササイズをご紹介しました。

そして約1ヶ月後にご連絡をいただいた時には、悩まされていた脅威感が消え、気持ちも穏やかな状態になられていました。聞くと毎日欠かさず上記のエクササイズを実践されていたとのこと。改めて腹側迷走神経の調整が、安全安心の感覚を取り戻すことに効果をもたらしたと感じる経験でした。

 

自分も世界も安全であるという感覚を取り戻そう

2回にわたって、トラウマのでき方、残り続けるトラウマによる影響について、またそこからどのように回復していくのかについて書いてきました。

 

トラウマのエネルギーは、私たちを過去に留め、私たちの生命力を閉じる方向へと向かわせてしまいます。

しかし、たとえ、絶望や生きづらさがあったとしても、「どんな体験も感情―感覚―思いの集積で構成されている」という私たちの心と身体のしくみに立ち返って、苦しみを生み出す感情―感覚―思いに向き合い、解消していくことで、今を生きているという感覚を取り戻したり、自分も世界も安全であるという感覚を回復することができます。この状態で自分自身や世界と関わっていきたいですね。

 

 


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トラウマについて~生きづらさから解放されて自分を愛する力を取り戻すために~(前編)

2022年12月28日

今回からは「トラウマ」について書いていきたいと思います。

トラウマのメカニズムについての理解を通じて、なぜトラウマの解消が心身の不調や生きづらさからの解放につながるのかを理解していきたいと思います。

シリーズ1回目の今回は、トラウマがどのようにできるのか、そしてそのトラウマがどうして残り続けるのかについて見ていきたいと思います。

トラウマとは

トラウマとは、心に傷を残すようなつらい体験によって、その経験が、時間とともに単なる過去のひとつの記憶として消えずに、「トラウマ記憶」として残り続けることを言います。危険が去っても、トラウマ体験時に感じた思いや感情が、身体の中にとどまって、元に戻らない状態のことを指します。

そして、このトラウマによって、心が本来もつ機能や役割を果たせなくなることはよく知られているかと思います。この状態は、心身に様々な影響を及ぼします。不安障害や、パニック障害、うつ、依存症、摂食障害などの症状となって出たり、人間関係を構築していくことに難しさを感じたりと、生きづらさと深く関係するのです。

 

心に傷を残すつらい体験とは

「心に傷を残す辛い体験」とは、どのようなものでしょうか?

それらは色々に分類できますが、一つの例としては、一過性の非日常的な体験と、継続的にくりかえされる体験に分けることができます。以下はその例です。

 

<一過性の非日常的な体験の例>
・事故に遭った・事件に巻き込まれた
・自然災害、火災を経験した
・リストラに遭った
・暴力的な犯罪に遭った
・レイプなど望まない性行為を強いられた
・親しい人、大切な存在が亡くなった
・自分は経験していないが、他者がこれらを経験しているのを目撃した
・手術や何等かの医療処置において怖い思いをした

<継続的に繰り返された体験の例>

・暴言・暴力など、精神的・肉体的な虐待に遭っていた

・親や養育者から適切で十分なケアを与えられずニグレクトの状態にあった

・性的な虐待に遭っていた

・両親の仲が悪く、親同志の喧嘩、暴力を目撃していた

・長期にわたるいじめに遭った

 

危険な状況におかれたときに起こる生理的反応 3つのFパターン

私たちは、危険と感じたとき、命の脅威を感じるような状況に遭遇した際に、私たちの心と体はどのような反応を起こすのでしょうか?

 

安全が脅かされると感じた時は、私たちはとっさに反応します。「本当に危険なものなのかどうか」といった判断をする間もなく、危険だと察知すると、脅威から命を守るためのプログラムとして、防衛反応が作動するのです。この防衛反応には、3つのパターンがあり、その頭文字をとって、「3つのF」と言われます。いずれも危険な状況から命を守るための大切な生理的反応です。

ちなみに、この時、生命の維持を司る脳幹といった脳の古い部分が使われています。

 

<3つのF>

①Fight 闘う:危険な状況に立ち向かって、その状況を打破しようとする反応。その状況、相手に対して好戦的、攻撃的になったりして闘争モードとなる。

使われる自律神経の回路:交感神経

 

②Flight 逃げる:危険な状況から命を守るために取る反応。安全でないと判断される状況から逃げる、回避する。苦手な状況、人を避けるというのもこの反応です。

使われる自律神経の回路:交感神経

 

③Freeze 凍りつく:闘うことも逃げることもできないときに用いられる反応。あまりの恐怖に身がすくんだり、立ち尽くして動けなくなったりしている状態はこの反応によるものです。動物は、捕獲者に対して闘うことも逃げることもできないときは死んだふり(仮死状態)をして、捕獲者のが興味を失わせて、命を守るという戦略をとったりします。私たちが無表情になったり、ショックな出来事についてよく覚えていなかったり、記憶が抜け落ちるというのは、この反応によるものです。

使われる自律神経の回路:副交感神経の2つの回路のうち、背側迷走神経

自律神経についての記事

 

「過去のひとつの記憶」とならずに「トラウマ記憶」としてとどまり続けるメカニズム(理由)

それでは、単なるつらい経験ではなく、「トラウマ体験」になるのはどういう要素が関係をしているのでしょうか?

 

要素として、

・体験そのものの大きさ(よくある体験なのか、生命を脅かす体験なのか)

・体験のしかた(誰も気づいてくれず、誰にも助けてもらえない、繰り返しつらい出来事を体験するなど)

が挙げられます。

 

「トラウマ体験」となる4つの要素UDINからの考察

例えば、ドイツ新医学の分野では、以下の4つの要素が重なると「トラウマ体験」である、と言うのですが、これはまさに上記の体験の大きさ、体験のしかたという要素ともマッチするなと思います。

 

4つの要素

U:予期していなかった(Unexpected)

D:劇的でショックが大きかった(Dramatic)

I:一人で対処するしかなかった(Isolated)

N:対処する術、方法がなかった(No Strategy)

 

これらの4つを、例えば、地震などの自然災害や、事故などを例にとると、これらの4つがわかりやすいかと思います。これらは突然起きます。だからこそ、そのショックは大きい。たとえ周りに人がいたとしても、気が動転していたり、パニック状態になっていると、助けを求めることも難しくなり、目の前の事態にどうすることもできないと感じる、といった風にです。

 

トラウマレベルに影響を及ぼす3つの因子

またさらに「トラウマ体験」の傷の深さに影響を及ぼす因子として以下の3つがあると言われます。

 

①一つは、トラウマ体験にさらされた時間の長さです。それが、一回もしくは短期間だったのか、長期間にわたったあるいは、日常的に繰り返されたのか。

 

②もう一つは、大人になって経験したものなのか、心も脳や神経系も含めて発達の途中である子どもの頃に体験したものなのか。

 

③最後の一つは、自分と相手との間にどれぐらいの関係性の近さがあったのか、です。
例えば、日常生活の中で、親や養育者との関係が不安定だったり、学校でいじめにあっていっていたなどは、自分と近いい関係がある人との間で起きた問題として捉えることができ、それがトラウマのレベルに影響を与えるということです。

 

凍らせたままになる感情―感覚―思い

先に、防衛反応の3Fについて述べましたが、そのうちの一つであるFreeze反応は、危険で恐ろしい経験に対して命を守るという意味では大切な反応なのですが、同時にその時に感じた感情―感覚―思いを切り離して閉じ込めることもします。解離と言ったりします。その経験とよく覚えていない、記憶が抜け落ちているといったことがあるのはこのためです。生命の維持のために、その時のショックを感じないようにしているわけです。

ちなみに自然界の野生動物は、死んだふりをしたことによって、捕獲者が興味を失って退散し、安全を取り戻すと、ゆっくり起き上がって、深い呼吸をし、体を震わせて体内に閉じ込めていたエネルギーや恐怖、緊張を解放して通常の状態にリセットするということをします。そうすることで、トラウマ体験として残らないのです。

 

しかしながら私たち人間は、野生動物のように、体内にためたエネルギーや感情―感覚―思いなどを自然に解放することができません。

その体験で感じたこと(光景、におい、光など五感で感じ取っていたことも含みます)をそのまま閉じ込め、凍らせることになるのです。

さらに、そこに体験の大きさや体験のしかたといった要素も加わった場合、閉じ込めるものがどれだけ大きいものになるか、想像に難くないかと思います。

 

レジリエンスを低める幼少期の体験

前述のトラウマレベルに影響を与える3つの因子(時間の長さ、時期、関係性の近さ)は、私たちの、ストレスや逆境に対応したり、そこから回復する力(レジリエンス)にも影響を及ぼします。そして、その力が未発達であることによって、トラウマ体験がトラウマ記憶として残ることにもつながっていきます。

対応したり、回復したりできる力は、子ども時代に親や養育者と安定した関係があったり、守られている、ケアされているという感覚が十分に持てていると健全に育まれていきます。

 

そして、それは、その子の世界と自分自身を見る土台にもなっていきます。ですので、この土台が不安定であったり、脆弱であると、成長する中で経験することが、傷(トラウマ記憶)として残りやすくなってしまう要因の一つとなります。

 

 

このように見てくると、様々な要素や因子が影響したり、組み合わさったりすることで、体験がトラウマ記憶としてとどまることを理解できるのではないでしょうか。

 

 

次回は、トラウマによる凍らせたままのものから見える世界と、トラウマからの回復について書いていきたいと思います。

 

 


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複雑性トラウマ(愛着障害)、鬱のしくみについての学び

2019年1月14日

週末は、OAD心理セラピスト養成講座にアシスタントとして参加しておりました。

今回の授業は、
複雑性トラウマ(Complex PTSD・愛着障害)、鬱のしくみと対処方法、についてでした。

複雑性トラウマの状態とは、長期にわたる虐待(肉体的だけでなく精神的なものも含みます)やニグレクトなどにより、深く傷つき、自分も信頼できない、当然他者も信頼することが難しくなっている状態のことを言います。
当然、強い自己否定、他者否定があるので、人生のあらゆる面で生きづらさ、苦しみを生み出します。

とはいえ、これは、虐待やニグレクトなどをうけた人だけの話ではなく、
多かれ少なかれだれもの中にこの状態はあり、

今回、あらためて自分の傷つきが今の人生や言動にどのように表れているのか、ということにも気づくことができました。

複雑性トラウマ(CPTSD・愛着障害)の授業 講師は、浦松ますみOAD心理セラピストさん

また、心理セラピストとして、どのようにCPTSDのクライアントさんに対応していくのか?といったこともケーススタディから学んでいきました。

でも、そこにあるのは、ハウツーではなく、セラピストとしてどうありたいのか?ということになってきます。

健康な境界線を引きながら(セラピストの自分の心地よさをないがしろにしての対応は、セラピストも疲弊しますし、その中でのサポートは苦しいサポートになってしまうでしょう)、そのうえで対応ができることをやっていく、終わり!(それによる相手からの反応がどんなものになるかはわからないけれども、私ができるサポートはこれですよ、それについては責任もちますよ、というスタンスとでもいいましょうか)

そしてそれができるようになるには、やっぱり自分を見つめていくことにつきるのだな、ということにも戻ってきます。

 

OAD心理セラピスト養成講座のモットーは、

「自分を癒せて初めて、人を癒せる」です。
やはりここに戻ってくるのです(*^^*)

 

そして2日目は、鬱のしくみと対処法でした。

鬱のしくみと対処法の授業風景 講師は、溝口あゆかさん しくみについて、OADセッションの進め方について実践的に学びました

WHOによると、2025年までには、病気の中でも2番目に多い病気になるだろうといわれているそう

マクロ的にとらえると、鬱という症状を生み出すものに、社会的、心理的、身体的といろいろなアスペクトが関わっていますが、
でもミクロへと突き詰めていくと、その社会や環境の中で活動しているのは、一人の個人

そうであるとすると、やはりその”個人”を見ていかなければならないでしょう

また、同じ状況、環境にいても鬱になる人とならない人がいるわけですから、
そういう意味では、その個人の”中”をよく観察していく必要があるでしょう
その状況、環境をどのようにとらえたのか?解釈したのか?
それは自分のことをどう見ているからなのか(セルフイメージ)?

そういったことを見ていくことで、本当の意味で
重度のトラウマやストレスといった、鬱の根本の原因から解放されていく、

そしてそのプロセスは、力を奪われていた自分が、力を取り戻していく、というプロセスとも重なりますので、
鬱の症状からも自ずと解放されていく、ということになるでしょう

さらに、鬱という時に体では何が起きているのか?を
脳科学の観点から、
また神経系の観点をポリヴェーガル理論に沿っても学んでいきました。

心の状態がどのように体に影響があるのかの視点を持つことは、
目の前のクライアントさんがどのような状態にあるのか?をセラピストが把握することにも大いに役立ちます。

ということで、心の面、体の面からも多く学びを得られました。

 

そして、何より、クライアントさんと対応する際に、

表れとしてどんな状態であろうとも、必ず健康な面がある、傷ついていない面がある、ナチュラルな部分があるということを忘れていない

それは、症状や表れの中に巻き取られない、
何とかしなければ!という恐れからの変な力の入り方のサポートではない、
どこか安心で大丈夫であるとわかっているサポートであり、

そのようなサポートをしていきたいとも思いました。

そしてそれは、やはり自分の中に大丈夫感を育てていく、そこに戻ってくるのだな、とも思っております。

 

今回も最後まで読んでくださりありがとうございます♪
深呼吸して~~ 自分にやさしく♡


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